あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

「頭、いた……」

 ボソリと呟けば、慎吾が慌てて彼女の額に自分の額を合わせてくる。

「大丈夫か」

 慎吾の双眸に不安が揺らめいたので、違うと一生懸命否定した。

「あまりに別世界の話すぎて理解できなかっただけ」

 彼は明からさまにほっとした表情になると、脅かすなよ、と言った。
 食洗機のスイッチを押して戻ってくると、里穂の隣に座り込んで一緒に洗濯物を畳みだした。

 ……我が子達はまだまだ汚すから、一日洗濯をサボると翌日がとんでもないことになる。
 今日も乾燥機で乾かした洗濯物を床に広げたらこんもりとした山になったので、慎里が喜んで突き進んでいた。

「まあ途方もない話だよな」

 苦笑しながら言う夫を、里穂は軽くにらむ。

「プライベートジェットを貸してくれる知り合いがいるのに『庶民』って言い張るの」

 うっかり聞き逃してしまっていたが、親子四人で住んでいるこのマンションの支払いは完済しているのだという。

 おまけに「子供が大きくなったら一戸建ての方がいいかなあ」などと時折呟いていたりする。

 さらには生活費を出させてもらっていない。
 それだけ稼いでるのに、なぜ一般人を装っているのだろうか。