「ほんとか。季穂ちゃん、もう一回!」

 目を輝かせて慎吾が胎の子に頼む。

「慎吾、まだその名前早いってば」

 言いつつ里穂は彼の手を、先ほど感じた動きがあったところに置いてやった。

 両親の仲睦まじい姿に仲間に入りたくなったらしく、慎里が二人の膝によじのぼってきた。
 二人が産院に行っている間、深沢の家に預けられていたのである。

「きーほ、きーほちゃん」

 慎里が歌うように里穂の腹に呼びかける。
 里穂は息子の髪の毛を優しく撫でてやる。

「慎里、赤ちゃんはまだ生まれてみないと男の子か女の子かわからないの」

 男児ははっきりと証拠があるが、見えない場合は女児の可能性が高いだけなのだ。
 女児だとわかるのは妊娠十七週から十八週くらいと言われている。

 だが慎里はふるふると首を横に振った。

「きほちゃん」

 キッパリと断言すると母親の腹にしがみつく。
 胎児も兄に賛同するようにプク、と動いた。

 再び胎動を感じた夫婦は顔を見合わせた。

「……なのかな」
「子供同士、わかることがあるのかもしれない」

 数ヶ月後。
 深沢家に新たに生まれた子供は両方の祖父母の名前をとって『季穂』と名付けれられた。

「生まれたばかりって、こんなに小さいんだな」
 
 里穂の胸のうえに寝かせられている娘にそっと触れながら、慎吾は呟いた。

 感動からか、声が震えている。

「でも、こんなに大きくな育ってくれるまで、里穂が守ってくれた。これからは俺が守るよ」

 彼の大きな手は、片手でもすっぽり娘をつつみこむ。

「里穂。ありがとう、君は俺に新しい幸せをくれた」

 慎吾は里穂の額に口づけた。
 
「愛してるよ」