「手塩にかけた娘の結婚式だ。誰よりも参列したいのはご両親だし、俺も君の花嫁姿を見せたいから」

 慎里ももう一組の爺ちゃんと婆ちゃんを知る権利があるし、と言われたところで里穂の涙は堤防を超えた。

「俺の大好きで大事な奥さんは泣き虫だな」

 夫は妻を優しく揺すってやり、後から後から溢れてくる涙を吸い取ってやる。

「しん……ごが、泣かすようなことをする、か・らッ」

 しゃくり上げながら抗議したので切れ切れな言葉になった。

「惚れ直した?」

 慎吾に訊ねられた里穂は彼の首に抱きつき、大好きとささやいた。
 彼はしばらく里穂が泣くがままにさせてくれた。

 どれくらい経ったろうか。
 ようやく鼻をぐずぐずさせながらも、にっこりと微笑んだ妻を慎吾は横抱きにすると風呂に連れて行った。

 シャワーを浴びて湯船に二人で浸かっていると、里穂の体の強張りが取れてきた。
 慎吾は彼女を背中から抱きしめてやりながら結婚式についての続きを話す。

「花嫁衣装は、お袋が『一緒に選ぶ!』って言い張ってるから、連れて行っていいか?」

「お義母さんと一緒のお出かけ嬉しいな」

 さっぱりした性格の義母は一緒にいても居心地がいい。

 好奇心旺盛で、美味しい野菜を世の中に送り出そうとしている義母の志は、食育を考え始めている里穂の心にとても響いた。

 慎吾は里穂の孤独を癒して、彼女の世界に光と愛を与えてくれた。

 義母は自分と息子だけの小さな世界に縮こまっていた里穂に、世界は面白いと教えてくれた。

「選んだ後、親父も混ぜてやってどこかで食事でもしよう」

 エスタークホテルは予約でほぼ満室。
 キャンセルが出たらすぐ埋まってしまうため、閑散期というものがない。

 そのため時期については『籍は入れてあるし、里穂と慎吾の勤務を調整しよう』ということになった。