あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

 里穂が慎吾の腕のなかで、拳を握りこむ。
 期待を込めた眼差しで、彼女が慎吾を見た。

「【おかえりやす】、つまり現住建築物への放火したことについて公訴時効は二十五年。まだまだ時間はたっぷりあるから警察は奴を放火教唆の容疑で告訴予定」

 里穂の顔がぱあ、と輝く。

「……だが、これは放火の現行犯が捕まらないと、逃げきられる」

 慎吾はあくまで冷静に告げる。
 唇を噛み締めて俯く里穂に、慎里も同じようにしゅんとなった。

 慎吾は二人の頭に手を置いて同時に撫ぜた。

「逃げ切れたとしても真っ黒だ。小物だから、選挙に無所属で勝てる人間じゃない」

 慎吾の慰めの言葉に、里穂は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「……正直言えば、あいつを刑務所に入れてやりたい。……けど、仕方ないよね」

 無理矢理だが、気を取り直した里穂に、慎吾が通帳を渡した。

 不思議そうに彼女が通帳を開くと、かなりの額が振り込まれている。里穂は目を見開いた。うかがうように彼を見上げる。

「……この通帳は?」

 慎吾によれば、かつて里穂の両親に支払いを拒否した保険会社からの入金だという。

「旅館にかけられていた火災保険について、異例の速さで再審査を行い、全額支給を決定した」

 それが、通帳の預金残高だと。