「政調会長センセーの派閥も不祥事続きだからな、自分の配下についてチェックを厳しくしている」

 Q市議員はR市と戸黒を追い落とす気満々だろう。
『遊びの……』経営者は、責任者から報告を受けて戸黒に嫌悪感を抱いた。

「奴を厚遇する議員は抵抗するだろうが、派閥のボスに戸黒を切れと言われたらどうだろうな」

 慎吾の目的は戸黒の政治家生命を断つこと。

「……里穂」

 火事の衝撃に加えて、両親を相次いで亡くしたこと。
 辛酸を舐める中で、彼女の記憶が薄れていたのはむしろ幸いだったと慎吾は思う。

「俺と再会する前に記憶が戻っていたら、里穂は一人で奴の事務所に飛び込んでいたかもしれないしな」

 早まらずにいてくれてよかった。

 里穂が独りで立ち向かっていたら、戸黒にあっけなく潰されていたことだろう。

 だが、今回の出来事で里穂は世間を味方につけたも同然である。
 そして、彼女には自分がいる。
 自分が傍にいる時に、戸黒に対決できた偶然に彼は感謝した。

「……最大の懸念は、里穂が俺のいない間に自暴自棄になることだ」

 慎吾は眠っている里穂を見つめた。

 ゴミ掃除しているさなかに、彼女がこれ以上傷ついてしまうのを止めなければ。

「休ませて、ひかるさんの所に連れていくか」

 隠岐の妻は、エスタークホテルでも最高らんくの『エスタークホテル隠岐の杜庭園』のツアーガイドを務めている。

 CEOの妻への溺愛ぶりから、厳重に警備されている場所だ。
 あそこであれば、戸黒風情が雇ったチンピラは入所できない。

「……いや」

 慎吾は決断すると、ある場所に電話をかけた。