あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

「……痛い?」

 おそるおそる触ろうとして、慌てて手を引っ込める。
 汚い手で触れてはバイ菌が入ってしまうかもしれない。

「もう全然痛まないよ。そりゃ数年は痛んだし、やってたサッカーはやめたけど」

 シンゴはその時、いくつだったのだろう。

 低く落ち着いた声だが、態度や表情が若々しくて三十くらいに見える。
 火傷をしたとき彼は高校生くらいだったかもしれない。

「火傷はね、人を救った時に負ったものだから勲章なんだ。だから恥じてはいない」

 言い切る慎吾の背中は逞しくて誇りに溢れていた。
 里穂は彼をまぶしく思う。

 ……ふと。
 十三年前。
 里穂は十二歳の時に火事に遭い、その時助けてくれた青年がいた。

 あの時の記憶はうろ覚えだが、彼は大学生くらいだったろうか。
 とても背が高かったことと、里穂を導いてくれる背中が頼もしかったくらいしか覚えていない。

 ……あのお兄ちゃん、どうしているかな。
 会えたらありったけの感謝を伝えたい。

 シンゴの背中があの時の青年の背中に思えて、里穂はそっと唇で傷痕に触れた。
 いたわりのキス。
 柔かい感触がしたのだろう、びくりとシンゴの背中が跳ねる。

「ありがとう」

 里穂は無意識に微笑んでいた。