あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

「……あの」

 ハロウインパーティがあった会場はエスタークホテルチェーングループが旗艦店としている本店である。

 ホテル業界では『城』と呼ばれている建物だ。

 豪壮な外装をもち、エレガントで寛げると評判の内装のホテルで、スタンダードクラスの部屋でも一泊数万円はする。
 その客室になぜ自分は入り込んでいるのだろう?

「ん?」

 里穂をドア際に残したまま、シンゴは室内を奥に進むとベッドの前で止まった。

「私、知らない男の人と部屋に入ってしまって、ヤバかったでしょうか」

 おどおどとつぶやいた。

『猿や鹿より怖いのは人間の男だ。いいか、里穂。男客に一人で近寄るんじゃないぞ! とって食われるからなっ』
 幼い頃、父に散々言われていたのに。

「俺となら安心だよ」

「『男はみんなそう言う』って母が言ってました」

『熊みたいに怖いお父さんに、お母さん攫われちゃったのよう〜。里穂も甘い言葉には気をつけてね』
 慌てふためく父と、笑っていた母を思い出した。

「ほんとに大丈夫。こう見えて俺は女の子に不自由していないの」

「確かにシンゴは選ばれるほうではなく、選ぶ側だよね」

 だが、フルコースや一流の食事ばかり食べると、たまにはスナック菓子をつまみ食いしてみようかなと考えるかもしれない。