あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

 目を丸くしているとシンゴが屈んできて、そっと彼女の耳にささやいてきた。

「気がついてる? 窓の右側の青ジャケットの男と、ドアの左手前の武士の格好している奴」

「え?」

 シンゴの陰からのぞけば確かにいる。

「二人とも君狙い、しかもゲイ」

「えっと……? それは私を男と勘違いしてるってこと?」

「そう」

 うなずかれても、頭がついていかない。
 男同士での愛の交わし方といえば。
 三秒後。

「え、えぇ……!」

 むぐ。
 叫びだしかけたら、予想していたらしいシンゴに口を塞がれた。

「しかも彼ら、共闘することにしたようだ。二人に連れこまれて、サれちゃうよ?」

「さ、……され……」

 初恋もまだなのに見知らぬ男二人がかりでなんて、そんなヘビィなことを経験したくない。

 里穂が涙目でフルフルと見上げれば、シンゴは任せろとばかりに微笑み返してくれた。

「てな訳でおにーさんに口説かれたフリをして、一緒に抜けませんか」

 魅力的な誘いに「りょーかい」と陽気に応えると、里穂はシンゴに脇へ手を差し入れられ、会場の外に連れ出された。



「どうする? 飯でもする?」

 退場してからシンゴに聞かれて、里穂は肩をすくめた。

「この格好だと入れる店が限られますよね」

 ……正直、この男性としゃべっているのは楽しい。
 着替えて日常に戻れば静かな店に入れもするだろう。だが、なぜかもったいない気がする。

「了解。じゃあ、ルームサービスでも取ろう」

 里穂はぱあっと顔を輝かせた。

「そうこなくちゃ!」

 シンゴの隣をスキップするように歩き、鼻歌を歌っている里穂は、全く警戒することなく楽しむ。
 
 ……ちら、と確認したシンゴが柔らかい笑みを唇に浮かべているのに、里穂は気づいていなかった。