寝返りもままならず、進学や将来の不安があって自暴自棄になっていたのではないか。

 だが、慎吾の消えかけていた心に親友が再び火を点けてくれた。

 里穂の大好きな人がニッと笑う。

「親友にそこまで言われて発奮しないのは男じゃないよな」

 辛い皮膚の移植手術もリハビリも耐え、半年で退院したという。 

 里穂がこらえきれずに涙をこぼすと、慎吾は優しく拭ってくれた。

「奴の言葉を本気で実感したのは、里穂とパーティで再会したときだよ」

 彼女は、弾かれたように慎吾の顔を見た。

「里穂だけが火傷痕にキスしてくれた。眠っている君を抱きしめながら、『俺の火傷、最高!』って感謝していた」

 全てが繋がってるんだよ、と慎吾は言う。

「君の家の旅館に俺達が泊まったその日に火事があった。俺が君を助けた。この火傷は将来の道を指し示してくれたし、近づいてくる女性達が俺のことを本当に好きな()かどうかを識別してくれた。差し引きでいうとプラスの方が大きい」

 それでも。

「貴方のご両親に顔向けできない……」

 親になったからこそわかる。 

 子供の体に髪一筋ほどの傷でも負わせられたら、里穂はどんな相手にでも立ち向かう。

 ましてや、我が子に一生残る傷をつけた人間をどれだけ恨むかわからない。

「周囲には『ハロウィンに出会った娘でなければ、誰とも結婚しない』と宣言している。両親は護孝が嫁さんを迎えたのを羨ましがってたし、一生孫が見れないと諦めているだろう。嫁と子供を見つけたって連絡したら、狂喜乱舞して里穂と慎里を可愛いがる。顔向けできまくるよ」

 里穂はとうとう声をあげて泣き出し、慎吾は彼女の頭を己の胸に抱え込んだ。