「入院中、痛くてウンウン唸っていたら護孝が見舞いに来てくれた。奴は開口一番、『僕が旅行に誘ったから慎吾が怪我をした。僕のせいだ』と言った」

 親友は泣き腫らしたのか、目が真っ赤だったという。

 ……里穂は、慎吾に一生残る傷を負わせてしまったことを悔いているのは自分だけではなかったと知る。

「その後、奴がなんて言ったと思う? 『火傷を負ったことを後悔させない。人生最大のチャンスだったと思わせてやる』、だ」

 里穂は眉をしかめた。

 隠岐の責任ではないとはいえ、あまりに傲岸なもの言いではないだろうか。

 慎吾がなだめるように彼女の頬を撫でた。

 それまでの慎吾と親友は『大学はサッカー強豪校に入ろうか、あるいは思い切ってスポーツ留学してもいいかもしれない』と、将来について夢物語のようにしか考えていなかったという。

 だが、入院していた慎吾の前に現れた友は少年から『男』の貌になっていた。

「『大学を卒業したら家業を継ぐことにした。僕の代でエスタークホテルをもっと大きくしておく。僕がCEOになったら慎吾をヘッドハンティングしてやるから、出来る男になっておけよ』だとさ。……何様だと思わないか?」

 楽しそうに言っているが、慎吾は当時どれだけ絶望しただろう。