「故郷を追われて、両親と私は転々とした」

 両親は、以降定住もできないまま金が稼げると聞けばどこへでも赴き、一番きつい労働をこなした。

 解体作業の仕事に就いていた父が足を滑らして事故死した。

 必死に働いて自分を育ててくれた母も過労のすえ亡くなり、里穂は施設に送られた。

 慎吾はなにも言わずに里穂を抱きしめてくれた。

 温かい。
 この胸の中でずっと甘えていたい。
 だが、彼を巻き込んではいけないのだ。

 里穂はそっと慎吾の体から離れた。

「わかったでしょ? 私は犯罪者かもしれないの。だから」

「ああ、わかった。俺をヒーローにしてくれた女の子がこんな魅力的な女性になってたってことは」

「……え」

 慎吾の瞳に愛おしさだけではなく、懐かしそうな色が混じっていた。

「あの火事の日、里穂の家の旅館に泊まっていたのは俺とCEOの隠岐護孝だ」

 里穂は驚きすぎて声も出ない。
 では自分を助け出してくれた『お兄ちゃん』は。

「慎吾だったの?」
「そうみたいだな」