「……里穂は本当に火遊びしていたのか?」

 静かな問いは、彼女を責めるものではなく事実を見極めようとしているもの。

 だから里穂も落ち着いて首を横に振った。

「わからない。両親は火の始末に神経質になっていたから、私が火を扱う時は必ずどちらかがいてくれていたの。だから……」

 自分じゃないと思いたかった。

 慎吾は我が子を肩に乗せ、片手で支えた。
 空いたほうの手で彼女の頭を自分の胸に引き寄せた。
 彼の穏やかな心音に促されて話を続ける。

「両親は旅館の立て直しよりも、私を助けてくれた『お兄ちゃん』への補償を優先した」

 預貯金を全ておろし、両親の生命保険や里穂の学資保険を解約しても用意できたのは、少年の未来を贖うには少なすぎるほどの額。

 それが、岡安家の精一杯だった。

「……その少年の家族は受け取ったのか?」

 ううん、と里穂は首を横に振った。

「『お兄ちゃん』のご家族は土下座した両親に『火傷は息子の判断した結果だから、過失の責は問わない。その費用は貴方達の暮らしの再建に役立ててほしい』と言ってくださった」

 その時にもらった言葉を思い出して、彼女の頬に一筋の涙が流れた。

 両親は号泣しながら、その金を受け取った。

 けれど、金融機関が融資を終了するから一括返済しろと迫ってきた。

 おまけに、どこの金融機関も追加融資をしてくれない。

 とうとう旅館の跡地は銀行に差し押さえられた。……のち、地元の不動産屋が格安で手に入れたと聞いている。