僕の家は、古い洋館だ。ひいおじちゃんの代から住み続けている。庭も広い。庭の一角に、青と紫の紫陽花が、キレイに咲いている。僕は、大学一年生。今年の春から大学に通い出した。うちには両親がいない。父は、2年前の夏に病気で亡くなった。母は、僕が3歳の時に亡くなった。28歳の若さだった。父は、画家だった。居間には、父が描いた母の大きな絵が飾ってある。背景が海で、麦わら帽子を被り、白いワンピースを着た母が優しく微笑んでいる。母は、とてもキレイな人だ。昔、父は、人気のある有名な画家だったらしい。僕が物心ついた心には、すでに病気がちで、床に伏せていることが多かった。庭に出ると、僕が生まれる前から、この家で、お世話をしてくれている家政婦の井上さんが、紫陽花に水をやっていた。おはよう、僕は井上さんに声をかけた。
すると井上さんは、おはようございます、ぼっちゃまと返してくれた。僕は、井上さんに聞いた。
井上さん、ずっと聞きたいことがあったんだけど
教えてくれない❓聞きたいことって❓井上さんが聞いてきた。お母さんって何が原因で亡くなったの❓僕が聞くと井上さんは困った顔をして、えーっと、なんでしたっけねーっと首を傾げている。
知らないとは言わせないよ。僕が言うと、井上さんは、この話を聞いても、誰にも言わないでくださいますか❓っと言ってきた。僕が、うなづくと井上さんは、ゆっくり口を開いた。旦那様は、ぼっちゃまが、幼い時、有名な画家さんでした。仕事の依頼が多くて、何日も部屋に閉じこもって絵を描いていらっしゃいました。旦那様は集中すると食べることも寝ることも忘れて没頭して描くようなお方でした。奥様は、仕事を持ってらっしゃらなかったので、退屈されていました。それを感じた旦那様は、奥様に運転手をつけました。津田という20代の青年でした。津田は、背がスラっと高くハンサムでした。寡黙でしたが、温和な性格でした。
奥様は、津田の運転で、よく出掛けていらっしゃいました。今日は、デパートに行った、映画に行った、遊園地に行った、海に行った。奥様は目を輝かせながら、少女のように私に、よくお話されていました。奥様は、良家のお嬢様で、旦那様と結婚されるまでは、自由にお付き合いとかは、なさってなかったようなので、お出かけが、よっぽど楽しかったのでしょう。私は、奥様と津田の関係を知ってしまいました。2人は、男女の関係になっていました。周りから見てもそれは、一目瞭然でした。旦那さまも、それに気づいてらっしゃいました。ある日、私が、今みたいに、庭で水をまいていると、旦那様の怒鳴り声が聞こえてきました。それに対しての奥様の言い返すような声も。
そして、そのあと、奥様の悲鳴に変わりました。
私は、走って、旦那様の部屋に行きました。屋敷の外で車を洗っていた津田も駆けつけてきました。私たちが、部屋に入るとすでに、奥様は、絶命されておりました。私たちは、絶句しました。旦那様は、冷静におっしゃいました。俺には、小さい坊主がいる。俺が、捕まって、坊主の側を離れるわけには、いかない。すまん、津田、おまえと、さゆりの関係は、前から知っていた。俺も忙しくて、相手をしてやれないから、関係に目をつぶろうとしていた。しかし、俺は、やはり、さゆりを愛していたんだ。火がついたように嫉妬する気持ちが激しくなってきた。さっきも、さゆりが謝ったら、なかったことにしようと思っていた。しかし、さゆりは、おまえを愛してると言った。俺と別れたいと。しかも、お腹の中には、お前の子がいると。俺は、やはり許せなかった。だから、首を絞めて殺した。津田、お前は、賭け事で多くの借金を背負ってるそうだな。俺が、その借金を全て肩代わりしてやるから。さゆりを一緒に埋めてくれないか?旦那様は、津田に聞きました。津田は、借金の支払いに困っていたので、すぐさま、返事をしました。承知しましたと。その日の真夜中、2人は、奥様を庭に埋めました。そして、次の日、旦那さまは、津田に、たくさんの紫陽花を買ってくるように言いました。奥様を埋めた上に、紫陽花を植えたのです。毎年、紫陽花は、キレイに咲きます。旦那様は、奥様を殺めたあとも、お許しに、なられていなかったことがわかりました。
紫陽花には、いくつかの花言葉がありますが、
その中には、浮気と言う言葉も入っています。