ハリスはそのひとつひとつを味見して、
「これはレモングラス……こっちはマジョラムに近いな」
と呟いている。
 それらをうまく調和させたハリスが酸味をきかせたさっぱりしたソースを作って、海王魚のカルパッチョが完成した。
 このソースが海王魚の淡白な味の中にある甘みと旨味を主張しすぎることなく引き立てていて、爽やかな味わいが口の中に広がる。
 臭みがまったくなくて、何皿でも食べられそうだ。

 リリアナはしばし夢中でカルパッチョに舌鼓を打っていたが、利き腕を負傷して食べにくそうにしているテオに気付いて、カルパッチョをフォークで突き刺してテオの口元に突き出した。
「はい、あーん」
 言われた通り口を開けて頬張ったものの、テオは不服そうにしている。

「子供扱いすんなよな」
「いいじゃない。テオと初めて会った日も、起き上がれないテオに食べさせてあげたわよね? はい、あーん」
 最初より一口の量を増やしても、難なくパクリと食いつくテオだ。
 クラーケンを食べてからまださほど時間が経っていないが、慣れない海水浴とアクシデントで消耗したせいで空腹なのかもしれない。

 海王魚には怪我の回復効果はないけれど、そういうことならどんどん食べさせてあげなきゃ!
 
 リリアナは張り切って、矢継ぎ早にカルパッチョをテオの口へと運ぶ。
「はい、あーん」
 しかし途中でテオに怒られた。
「ペース、はえぇって!」