「コハクおいで。大丈夫、怖くないわよ」
 コハクは草原エリア生まれの魔物で、幼いうちにハリスのペットとなったため泳いだ経験はないはずだ。
 リリアナが促すと、コハクはおそるおそる海水に足をつける。
 波打ち際でパシャパシャ水遊びをしながら走り回るうちに慣れてきたようだ。もう少し深い場所にも興味を持ち始めたコハクの前足をリリアナが持って誘導する。
 手を離すと上手に浮いて、前足をかきながら泳ぎ始めた。
 
「すごい。コハクったら、もう泳げるじゃない!」
 リリアナが褒めると、コハクはドヤ顔でテオを振り返った。
 うまく泳げずにもがいていたテオがそれに気付いて、顔を真っ赤にして怒っている。
「コハク! てめえ、焼いて食ってやるからなっ!」
 リリアナたちに近づこうとするテオだが、手足をバタバタ動かしてもちっとも前に進まない。

 意地を張らずに素直に教えてくださいって言えば、泳ぎ方を教えたのに。
 リリアナはそう思いながら、得意げにスイスイ泳ぎコハクを連れてもう少し沖へ向かった。
 大きく息を吸い込んで勢いよく潜り海中をうかがうと、前方に中型のクラーケンが見える。
 クラーケンはタコとイカを足して2で割ったような魔物だ。
 
 美味しそう!
 空腹のリリアナにとって、魔物は食材にしか見えなくなる。
 一旦海面に浮上し、ここで浮いたまま待っているようコハクに言いつけたリリアナは、また大きく息を吸い込んで海中に潜っていった。