リリアナがロールカツをひと口大に切ると、立ち上る湯気とともに大地の恵みの象徴のようなタケノコとキノコの豊かな香りがふわりと広がった。
 取り皿にのせてハリスに渡す。
 薄切り肉に巻かれたタケノコとキノコはふっくらツヤツヤに輝いていて、匂いだけでなくその見た目にも食欲をそそられる。
 テオは待ちきれない様子で大皿に盛ったロールカツの山に手を伸ばし、フォークを突き立てた。
「俺、このままでいいから」
 言うや否や、がぶりとかじりつく。

 口をはふはふ言わせながらあっという間に1本目を平らげたテオが、2本目に手を伸ばす。
 その様子を見て満足げに笑ったリリアナがハリスに評価を求めた。
「先生、ロールカツどうかしら?」
「味、食感、揚げ具合、全て上出来だ」
 一切れ食べ終えたハリスが口元を綻ばせる。
「やった!」
 リリアナは小さくガッツポーズをした。
 カリュドールの肉をハリスが理想的な状態に捌いてくれたおかげであることは重々承知しているが、一流調理士であるハリスに料理の出来栄えを褒められるのは素直に嬉しい。

「さあ、わたしも食べるわよ~~っ!」
 もちろんリリアナも一口大に切ったりせず、そのままいく派だ。

 テオ同様、豪快にかぶりつくと衣のサクっとした歯触りの次にジューシーな肉の旨味が口の中にあふれる。
 さらにはキノコとタケノコが舌の上に躍り出た。
 こりこりのキノコとホクホクのタケノコは食感が楽しめるだけでなく、肉にしっかり巻かれていることで濃厚な香りと味を逃がすことなくとどめている。
 採れたてのタケノコにはえぐみがなく、カリュドールの脂の甘みとも相性バッチリだ。
 最後に鼻から抜けるハーブの香りとほんの少しの獣臭さが逆にクセになり、すぐにもう1本食べたくなる。

「てめえ、食いすぎだろ!」
「それはこっちのセリフよ!」
「にゃあ! にゃあ!」
 リリアナとテオの痴話喧嘩にコハクまで参戦し、にぎやかな食事となった。