大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する

 再びリリアナの姿をした霧の魔物が迫ってくる。
 テオは慌ててセーフティーカードを取り出すと地面に置いた。招かざる者をシャットアウトする結界が張られ、霧の魔物はテオに近寄れなくなった。
 テオの首にまとわりついている謎の霧は、成り行きで一緒に結界内へ入ってしまったが。

「それで? あんた誰?」
 男の声の霧はおぼろげながら人の形をしている。
「私はジョセフと言いまして……」
「ああ、ジョセフか! あんたのこと探してたんだよ。俺はテオ」
 テオがジョセフの言葉を遮って、手をポンと打つ。
「つーか、なんで霧になってんだ?」
「それはですね――」
 ジョセフが霧になってしまった経緯を語り始めた。

 ジョセフが仲間と一緒にこのエリアを訪れた時、濃い霧に包まれたと思ったら突然、目の前に故郷で暮らす娘が現れたという。
 こんな場所に娘がいるはずがない。
 そう思いながらも追いかけずにはいられなかった。娘が立ち止まり、かわいらしい笑顔で抱き着いてキスしてきた。
 そして娘の唇から吐き出される霧を吸った瞬間、自分も霧になっていたらしい。

「霧になっちゃったんで指輪が抜け落ちて、帰れなかったんですよ! 一応、拠点には戻ってみたんですけどね、霧のままだと門へ帰還させてもらえなくって」
 なるほど、そういうことだったのかとテオは頷いた。
「チャーリーたちが何度か探しにきたみたいだが、会えなかったのか?」

 ジョセフは大きなため息を吐く。
「会えましたよ。でも話しかけても注意を引こうとしても無反応だったんです。私、まだいっぱしの霧にはなりきれていなかったんでしょうね、ハハハ」
 どうにも能天気な男だなと思いながら、テオの頭にふとした疑問が浮かぶ。
「いっぱしの霧は、人間と会話できるのか?」
「私の声が届いて会話できたのは、テオさんが初めてですよ! どういう能力です?」

 霧と会話できるスキルなど持ち合わせていない。
 ということは、霧耐性アップのバフのおかげかもしれない。
「バフが切れたらもう会話できなくなるかもしんねえから、いまのうちに言っときたいこと全部教えろ」
「ええっ!?」
 会話できる冒険者を見つけて安堵し、くつろぎモードになっていたジョセフが慌てはじめた。