大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する

 ******
(テオ視点)

「オイ! 待てよっ!」
 テオはハリスの言っていた注意事項を完全に無視して、人影を追い続ける。

 リリアナたちとともに歩き出そうとした時、リリアナがいる右側とは反対方向、左側になにか気配を感じた。
 首を向けてみると至近距離にエメラルドの双眸があったのだ。
 目が合うと、その双眸がパチパチと瞬きをした。まるっきりリリアナのように見える。しかし彼女は逆側にいるはずだ。
 名前を呼ぶとリリアナの返事が逆側から聞こえる。
 じゃあ、これは誰だ?
 ジョセフの容姿は、ネイビーブルーの目にダークブラウンの髪だと聞いているから別人だろう。
 
「じゃあ、おまえ誰だよ!」
 謎のエメラルドの目がくすっとわらったように細められ、離れていこうとする。一瞬ハニーブロンドの髪が見えた。
「あ、待てコラ!」
 迷わず追いかけた。
 魔物がリリアナに化けているんだろうか。誘っているなら乗ってやろうじゃねーか!

 追いかけているうちに霧が薄くなり、怪しい人物の後ろ姿がくっきり見えるようになった。
 長い髪を後ろでまとめたハニーブロンド、冒険服、マジックポーチを腰に着けている姿は、やはりどう見てもリリアナだ。
「オイ!」
 もう一度呼びかけると、偽のリリアナは立ち止まってテオを振り返った。

 テオは斧を振るおうとして逡巡する。彼女がにっこり笑ったからだ。
「リリアナ……?」
 もしも本物のリリアナだったらどうする?
 戸惑って斧を下ろしたテオに向かって、リリアナがとびきりの笑顔で駆け寄ってきた。
 そして、そのまま顔を近づけて唇同士が触れそうになった時――。

「はい、そこまでー!」
 突然横から割り込んできた男の声とともにテオの視界が霧に包まれる。
「うわっ!」
 驚いて後ろへ飛び退いた。

「火ですよ、火! あれは霧の魔物です。物理攻撃はききません。火でやっつけてください!」
 テオの首にしがみつくようにまとわりつく濃い霧が男の声でしゃべりつづける。
「火? 魔法使えねーし!」
 すると霧がため息をついた。
「ですよねえ。あなたどう見ても脳筋だし」
「うるせえ、知るか!」