大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する

「それで? この鍋をどうするんだ?」
 アルノーが怪訝な顔で聞いてくる。
 
 水、アカニンジン、アルミラージの肉、香辛料を入れた鍋を魔導コンロの火にかけたところまでは、調理でよくある工程だが、いつもと違うのは水を少なめにしていることだ。
 そしてリリアナが蓋をしっかり押さえるようアルノーに頼んだというわけだ。

 リリアナは、数刻前にハリスに聞いた鍋の中の圧力を高めれば一気に加熱できることを得意げに説明する。
「それ、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ!」
 きっと上手くいくはずだわ!

 火にかけた鍋の中をギューッと圧迫する。
 そのイメージを膨らませながら重力魔法を少しずつ強めていく。
 最初はなにも変化がなかったが、途中から鍋がガタガタ揺れ始めた。
 コハクが怖がって洞穴の最奥へと逃げて様子をうかがっている。

「おい! これほんとに大丈夫なのか?」
 アルノーが両手でしっかり蓋を押さえながらも慌てている。
「大丈夫だから、しっかり押さえていてってば」
 これ以上強くかけないほうがいいと判断してここで魔法をやめ、火も止めた。
 
 しかし、鍋はガタガタ暴れたままだ。
「まだしっかり押さえ続けていてね」
 ハリスは魔法を止めた途端に蓋が飛んだと言っていたから、ここで気を抜いてはいけない。鍋の中で暴れまわっているのはおそらく水蒸気だ。
 行き場のない膨らんだ水蒸気が蓋を押し上げようとしているということは……。

「おいぃぃっ! 俺もう限界だっつーの!」
「うるさいわねえ。大丈夫よ、しゃべれるならまだ余裕でしょ!」
「リリアナちゃん、さっきから『大丈夫』しか言ってないけど……これいつまで押さえればっ……いいんだよ」
 アルノーは顔を真っ赤にして必死の形相だ。

 水蒸気を冷やせばいいんだわ!
 おあつらえむきに、外には雪がたくさんある。

「ねえ、このままこのお鍋を外に運ぶから。その間、絶対に手を放さないでね?」
 アルノーは返事をする余裕もなくなったようで、素早く二回頷いた。
「いくわよ、せーの!」

 両手鍋の持ち手をリリアナが持ち、アルノーが蓋を押さえたまま一緒に立ち上がって洞穴の入り口まで持っていくと、凍り付いた雪に下ろした。
 ジュ~~ッ!と音を立てて周りの雪が溶けていく。