大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する

「拠点が見えたからさ、そのまま流されるよりこの辺りで雪崩から離脱しようって思ったらリリアナちゃんに当たっちゃったんだよ、これは本当に偶然。悪かったと思ってる」
 ちっとも悪かったと思っていなさそうな軽い口ぶりにますます腹立たしさを感じるリリアナだったが、ここでふとハリスがよく言っている言葉が脳裏に浮かんできた。

『過酷な状況であればあるほど、楽しく美味しくガーデン料理を食すことに大きな意味がある』

 雪崩に流され拠点からだいぶ離れてしまった。吹雪と寒さをしのげる洞穴は見つかったが、猛吹雪が続いたり雪崩の恐れがあれば、ずっと足止めを食う可能性もある。
 ギルドの受付で配布される指輪の強制送還機能が発動するまであと2日半。ヘタするとその間ずっとここでアルノーと一緒に過ごすことになりかねない。
 だったら、カリカリ神経を苛立たせるよりも一緒に料理を作って食べて、楽しく時間を潰す方がいい。
 
 リリアナは拳を握る。
「よし、ごはん作るわよっ!」
「唐突だな」
 アルノーは苦笑しながらも、拾ったアルミラージを一緒に捌いてくれるらしい。
 レンジャーは器用で狩猟が得意だから、アルノーも小型の魔物を捌いた経験はあるようだ。

 アルノーは腰に手を当て「ああ、そうだった」とガックリうなだれた。
 いつものクセで愛用のナイフを取り出そうとして、そこになにもないことを思い出したらしい。アルノーは、マジックポーチを雪崩に持っていかれたのだ。
 リリアナが眉尻を下げ、気の毒そうな顔で自分のナイフを取り出すとアルノーに手渡す。
「調理用でよければ使って」
「おお、サンキュ」
 
 さらにリリアナは、アカニンジンを取り出した。テオたちとスープを食べた時に余ったものだ。
 短時間で煮込むためには薄切りに……いや、さっそくアレをやってみようか。
 ハリスがこの場にいたら絶対にやめろと言われそうだが、いないこの状況なら試してみるチャンスだ。
 リリアナはムクムクと大きくなる好奇心を止められなくなった。
 
 あえてアカニンジンを大きく乱切りにして両手鍋の中へ放り込む。
 アルミラージの肉もミンチにするのではなく、大きめに切る。
 貴重な食材が無駄になる悪い予感が一瞬頭をよぎったが、ハリスから失敗談を聞いているのだから対処法はわかっている。
 
 鍋の中を圧力でギュウギュウにする時短料理に挑戦よ!
 
 リリアナは張り切って準備を進めた。