雪に埋まりながら流されて息もできない。しかし、どうにか身体強化の魔法だけはかけた。
ほどなくして流れは止まったが、自分がいまどこを向いて倒れているのか、腰に巻きついたものがなんだったのか、どこまで流されたのか皆目見当がつかない。
雪に潰され体が思うように動かせず、リリアナの心に焦りと恐怖だけが渦巻き始めた時、すぐ近くでなにかが雪を掻き分けている気配を感じた。
オウルベアだろうか。だとしたらこの状態で勝ち目はまずない。
覚悟を決めた時、視界が開けた。
そこから顔を覗かせたのは……きらきら輝く琥珀色の目と白いモフモフの毛。コハクだった。
コハクはリリアナの頬をいたわるようにペロリと舐めると、大きな前肢で雪を掻き分けリリアナのコートのフードをくわえて引きずり出してくれた。
「コハク~! ありがとう!」
自分を追いかけて雪崩に飛び込んでくれたんだろうか。なんて勇敢な子なんだろう。
リリアナはコハクの首に抱き着いて頬ずりする。
しかしまだ腰を引っ張られるような感覚がある。巻きついたままになっているものを確認すると、それは黒いムチだった。
「なにこれ……」
コハクにも手伝ってもらってそのムチを手繰り寄せてみた。
すると少し離れた場所の雪がボコっと盛り上がり、
「ぷはっ」
と、顔を上げて出てきたのは見知らぬ男だった。冒険者だろうか。
男は体中についた雪を手で払いながら立ち上がると、にっこり笑った。細身で背が高く軽装。ムチを持っているということはレンジャーだろう。
「いやあ、助かったよ。サンキュー」
男の軽い口調に腹が立つリリアナだ。
「ちょっと! どういうことよ。あなたがわたしを雪崩に引きずり込んだのね!?」
「悪い悪い。雪崩に流されながらなんかに引っかかればって無我夢中でムチを振ったら、こんなかわいいお嬢ちゃんが釣れるだなんてなあ」
レンジャーは軽薄な男が多いと思うのは偏見だろうか。
ムスっとするリリアナの傍らでコハクは男に向かって牙をむいている。
「待て待て! 俺は怪しいもんじゃない。本当に感謝してます。このとおり!」
男が両手を合わせて深々と頭を下げる。
とそこへ強い風が吹きつけ、吹雪を連れてきた。
リリアナは辺りを見るが視界が悪く、テオとハリスの姿も拠点も見えない。
相当流されたのか、現在位置がさっぱりわからない。
「テオ! ハリス先生!」
大きな声で名を呼んでみたが、風の音でかき消されてしまった。
ほどなくして流れは止まったが、自分がいまどこを向いて倒れているのか、腰に巻きついたものがなんだったのか、どこまで流されたのか皆目見当がつかない。
雪に潰され体が思うように動かせず、リリアナの心に焦りと恐怖だけが渦巻き始めた時、すぐ近くでなにかが雪を掻き分けている気配を感じた。
オウルベアだろうか。だとしたらこの状態で勝ち目はまずない。
覚悟を決めた時、視界が開けた。
そこから顔を覗かせたのは……きらきら輝く琥珀色の目と白いモフモフの毛。コハクだった。
コハクはリリアナの頬をいたわるようにペロリと舐めると、大きな前肢で雪を掻き分けリリアナのコートのフードをくわえて引きずり出してくれた。
「コハク~! ありがとう!」
自分を追いかけて雪崩に飛び込んでくれたんだろうか。なんて勇敢な子なんだろう。
リリアナはコハクの首に抱き着いて頬ずりする。
しかしまだ腰を引っ張られるような感覚がある。巻きついたままになっているものを確認すると、それは黒いムチだった。
「なにこれ……」
コハクにも手伝ってもらってそのムチを手繰り寄せてみた。
すると少し離れた場所の雪がボコっと盛り上がり、
「ぷはっ」
と、顔を上げて出てきたのは見知らぬ男だった。冒険者だろうか。
男は体中についた雪を手で払いながら立ち上がると、にっこり笑った。細身で背が高く軽装。ムチを持っているということはレンジャーだろう。
「いやあ、助かったよ。サンキュー」
男の軽い口調に腹が立つリリアナだ。
「ちょっと! どういうことよ。あなたがわたしを雪崩に引きずり込んだのね!?」
「悪い悪い。雪崩に流されながらなんかに引っかかればって無我夢中でムチを振ったら、こんなかわいいお嬢ちゃんが釣れるだなんてなあ」
レンジャーは軽薄な男が多いと思うのは偏見だろうか。
ムスっとするリリアナの傍らでコハクは男に向かって牙をむいている。
「待て待て! 俺は怪しいもんじゃない。本当に感謝してます。このとおり!」
男が両手を合わせて深々と頭を下げる。
とそこへ強い風が吹きつけ、吹雪を連れてきた。
リリアナは辺りを見るが視界が悪く、テオとハリスの姿も拠点も見えない。
相当流されたのか、現在位置がさっぱりわからない。
「テオ! ハリス先生!」
大きな声で名を呼んでみたが、風の音でかき消されてしまった。



