彼女は2回目も3回目も来てくれて、
酷くマイナーな箇所ばかり褒めて最後には必ず、
『ずっと好きなので!』と言い残して去る。
5回目に彼女がやってきてくれた時、
彼女も話したいことがあっただろうに、それを遮って聞いた。
『名前、何ていうの?』
それが自身の名前のことだと気づいた瞬間彼女は顔を真っ赤にして、
『ゆきのです!』
『ゆきの』
『雪に、「及ぶ」の中の線取ったやつで雪乃です!』
『雪乃…また来てね』
今日は『ずっと好き』が聞けなかったけれど、
あんなに雪乃の顔を真っ赤にさせたのが俺だと思うと、
最高に嬉しくてたまらなかった。
あれからライブでも握手会でも必ず雪乃を探すようになった。
不思議なもので、どれだけ多くの人がいても彼女だけは見つけられる。
そんな日々が2年ほど続いたある日の握手会。
今日も雪乃が来てくれていると気づいて喜んで、
その隣に知らない男がいるのを見て絶望した。
初めて思い知った。
アイドルである俺を応援してくれている雪乃が、
俺に飽きてしまったら、もう二度と会えないのだと。
雪乃から会いに来てくれなきゃ会えない。
だって、住む世界が違うから。
何を呑気に雪乃の『推し』であることに浮かれていたんだ。
そんな間に、隣のあの男が雪乃の『彼氏』になるかもしれないのに。



