俺の世界から雪乃がいなくなった。
『アイドルのあなたが好きだった』
そう言われたとき、鈍器で頭を殴られたくらい衝撃があった。
というか実際に殴られて記憶を無くしたいくらいだった。
俺は元々それなりに裕福な家庭で育った。
両親も愛情を注いでくれていたけれど、
俺は際限なく愛情を欲するバケモノみたいな子供だった。
小学6年生のあるとき街を歩いていたら、とある人に声をかけられて、
『アイドルになりませんか』と言われた。
その行為がスカウトだと知ったのは、その後のことだった。
『アイドルって聞いたことあるけど、何をするんですか』
と聞けば案外食いつきの良かった俺を見て、
その人は嬉しそうに、
『歌って踊って、お客さんを笑顔にする仕事だよ』と教えてくれた。
人を、笑顔にする。
『それって沢山の人に愛されますか』
俺の質問に、その人がした答えが決め手だった。
『もちろん。たくさんの人を愛して愛される仕事だよ』
俺が生きていくべきなのは、この道だと気が付いた。
それからはレッスンに明け暮れて、
中2の頃にはデビューが確約されている所属ユニットが決まった。
それが『GlassCraft』だった。
メンバーは同期だった蓮人とノア、先輩の聖生君。
…だけじゃない。
本当はもう一人先輩がいた。
彼は俺の教育係として色んなことを教えてくれていた人。
ようやくデビューが出来るその目前で、彼は芸能界からいなくなった。
そのときに初めて、この世界が光り輝くものだけではないことを知った。
涙は流さなかった。
だって俺は強く在らなきゃならないから。
彼に育てられた俺が、誰よりも眩しく開花するために。
そんな大切な仲間との別れを経て、中3の春にデビューをした。
沢山の愛をもらおうと必死で努力を重ねた。
自分の顔が『綺麗』だとか『クール』と称されることは分かっていたから、
それに則った性格になったのは、自然の流れだった。
愛が欲しい。
愛が欲しい。
『弓弦君って本当に綺麗ですね』
…違う、それは生まれつきだ。
『ダンスがしなやかで綺麗で』
…練習したら誰でもできる。
『弓弦君のクールなところが好きで』
…そうしたら皆喜ぶでしょう?
俺って、本当に愛されてる?



