新條君とプレハブに戻ってきた私に、
「弓弦かっこよかったね~」と天海君がニコニコの笑顔で話しかけてくれた。
それに頷いて「はい」と答える。
それでも天海君は私の表情を覗き込んで「…かっこよすぎて寂しくなった?」と聞いてくる。
やっぱり機微に敏いと言われるだけある天海君の目は誤魔化せないみたいだ。
新條君に促されて二人の間の椅子に座りながら、「…少し寂しくなりました」と正直に答える。
それに対して天海君は、「そっかそっか」と相槌を打ってから
「でも、先に遠い距離感を寂しくなったのは弓弦のほうだよ」
と言うから、真意が掴めなくて「どういうことですか?」と聞く。
新條君も「確かに」と頷くから、二人は分かっているみたいだ。
分からない様子の私を見て天海君はクシャッと笑い、
「いつか分かるよ。」と優しく言ってくれる。
「ただ知っててほしいのは、彼は君のために今日主将をしてるってこと。」
「聖生君が去年指名してたのもあるけど、芸能界引退と同時に主将は俺かノアに渡そうとしてた」
「でも特例で誰か呼べるってなったとき、君に見てほしいって思ったんだろうね」
そうやって話してくれる天海君の言葉に心がいっぱいになって黙っていると、
「ほら、王子が来た」
そんな新條君の声が聞こえて、反射的に扉の方を向く。
「…雪乃」
さっき遠くにいた特攻服の弓弦君が目の前に現れて、
「ちゃんと見ててくれた?」と、照れたように聞いてくる。
違わなきゃいけない住む世界の隔たりを、いつだってこの人は壊しにきてくれる。



