Filigran.




「勉強おつかれさま」


「ありがとうございます」



ベッドで横になって、暫くすると弓弦君から電話がかかってきた。


今日は学校で長い時間勉強したからかもうすでに眠気がきている。


ふわふわとした頭で彼の言葉を待っていると、それはすぐに紡がれた。



「俺は中3のときは既にアイドルやってたから、高校は必然的に決まってて。」


「だから、雪乃と同じ高校だったらなって何度も思った。」


彼の脳裏には今、中3の頃の自身が映っているのだろうか。


その頃の弓弦君を私は勿論知っている。


まさに私が彼の存在を知った時期だったから。



睡魔でウトウトしている頭で彼の言葉を反芻する。


「弓弦君が…私の学校…?」


「そう。だったらどうなってたかなって」


頭の中で、彼が私の学校にいる姿を想像してみる。




たくさんの女の子に囲まれた弓弦君。


体育祭ではリレーのアンカーで歓声が鳴りやまない、


バレンタインには持ちきれないチョコの嵐、


文化祭のときには他校からも告白。




うーん…間違いないかも…。



それできっと、


私は手頃な柱の陰から盗み見ることしか出来ないんだ。


…ううん、もしかしたら気持ちごと押し殺すかもしれない。




「…私、弓弦君が同じ学校じゃなくて良かった…」


そう呟くと、電話の向こうで「え、なんで、嫌いなの俺のこと」とか


何やら焦燥感溢れる声が聞こえるけれど、詳しくは聞き取れない。




よくわかんない…けど…。


「…だってたくさんモテちゃって私近づけないでしょ…?それは嫌だなぁ…」


「弓弦君がアイドルしてくれたから…ちゃんと出会えたんだよ…」


「ありがとう…見つけさせてくれて…」



刹那、意識が消えた。



暗い部屋に煌々とスマホだけが光る。







「…うそ、なにそれ…あれもう寝た?」


「…もう…振り回されるなぁ」








「…好きだよ、おやすみ」





深夜の月が光る。


新月はきっと満月を羨ましがらない。


何かを捨てないと、得られないものがあるから。