Filigran.




そろそろ学校の閉まる時間。


今日はこれでお開きにしようと言って、


荷物を持って戸締りと消灯をしてから教室を出た。



夜の学校は何だか物々しくて、心まで苦しくなってしまう。





迎えの車が来ている美花に手を振って、


小学校が同じだった、つまり家が近いほっくんと二人並んで帰る。




「ゆきの彼氏って騒がれてたイケメンって誰なの?」



夜の車が発する眩しい赤と、信号機の紅に目をくらませながら


立ち止まった私達は話す。




「小学校の同級生」


「…って俺にしか分からない嘘で誤魔化してるんだ」


「そうだよ」



小学校の同級生でつながりがあるのなんて、


今まさに隣にいるほっくんしかいないのに。





「誰かは聞かないけど、頑張ってみてよ」




眩い紅が緑に変わって、私達は安全な場所を歩き出す。




いつもは底抜けに明るくて、


夢中になって本を読み漁る彼の、誰も知らない顔。






「俺には恋愛は出来ないけど、ゆきには出来るかもしれないから」





自分を嘲笑するように言う、ほっくんのその表情が好きじゃない。



「ほっくんのそれは欠落じゃないよ」


何度言ってもきっと届かないけれど。






「ありがとう、またね」


「じゃあな~」



相変わらず家の前まで送ってくれて、


ここからもう既に見えているほど近い、


彼の家に向かって帰っていくほっくん。




「…幸せってなんだろうなぁ」



今日の星は雲に隠れて見えないけれど、


確かにそこにあるんだよと伝えてあげたかった。