「今回も頑張ろうね」
そう鼓舞する私に、
「うん、雪乃の足引っ張らないように今日の復習もしとく」
そう言ってニッコリ笑う美花。
「教えるのも勉強になるんだよ」と返して、これは二つの意味があるなと思い当たる。
単純に『人に教える』という行為は記憶の定着に良く働くんだけど、
『美花に正しく教えなきゃ』という意識も、いつもの勉強の効率を上げていると思うから。
人に教えるのって大変だけど、きっと奥が深くて面白いことなんだなと感じる。
「雪乃、また明日!」
「うん、また明日ね」
そう言って手を振って、学校近くの時計台を目指す。
学校よりは目立たないと言っても、あの場所は待ち合わせにも使われやすい。
果たして弓弦君は無事だろうか…?
時計台の下までやってきて、
あれ、女の子の集団はいないかとひとまず胸を撫で下ろす。
見渡せばいつも通りチラホラと人がいるくらいで、
弓弦君はまだ来ていないのかな…と思ったそのとき。
不自然に人が寄り付いていない場所を見つけた。
制服のワイシャツのボタンを3個ほど開けて、
中からは黒のシャツが見える。
ネックレスを何本も重ねてつけていて、マスクも黒。
目は不機嫌に細めながら、
明らかに柄が悪そうな彼は、片手をポケットに突っ込んでスマホを弄っている。
どこからどう見ても完全な不良で、だから周りは関わらないよう遠巻きにしているんだ。
私が通常生きていたら絶対に関わらないタイプの人だけれど、
どうしても話しかけないといけなかった。
意を決して近づき、声をかける。
「えっと、何でそんな恰好なんですか?」
スマホから顔を上げた彼は私と目が合うなり一瞬で殺気を霧散させ、
ほわり、と口元を緩めた。
「こうしてたら人が寄ってこないでしょ」
「雪乃、俺がしたヤンキーの役好きだったよね」
そう、この怖い”フリ”をしている人は、
普段はキラキラオーラを隠せないはずの弓弦君なんだ。
普段はノーセットなことが多い弓弦君の
珍しいセンター分けのヘアアレンジは、
ファンからしたら早く生写真にして買わせてほしいくらいだ。



