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真夜中の10時。
私は、そっと寮の部屋を抜け出した。
「桜……!」
ピクリと反応して、彼の視線はゆっくりとこちらを捉える。
「麗」
名前を呼ぶ声が妙に色っぽくて、ドキドキとしながら私は
階段の手すりに掴まり、桜の隣に立った。
灰色の雲が空全体を覆っていて、星も月もない。
ちょっと残念だなと、空を見上げて思う私。
「麗、これ受け取ってくれるか?」
サッと目の前に差し出されたのはーー、赤いリボンで束ねた、ガーベラの
花束だった。
「え、え? これ、私にくれるの……?」
「なんだよ。俺が花屋に行くのが、そんなにおかしいか」
ムスッとして、でも耳は赤くなっている桜。
「ううん、そんなことない。嬉しい……、ありがとう!」
私は満面の笑みを浮かべて、それを手に取った。
すると、桜が口を開く。
「ガーベラの花言葉は“希望”、“常に前進”。何となくお前に似てるなーって
思ってその花にした」
「そんな……、私なんかーー」
「麗には、俺との希望があるし、前進は俺の願いだ」
ふっと笑って私を見つめる桜がとてつもなく愛おしく感じる。
ああ、やっぱり好きだなぁと胸がきゅーんと締め付けられた。