「えっと……、だ、誰?」
「は? お前、とぼけてるだろ」

「とぼけてません! 失礼します!」
「ちょ、ちょっと待てよ……!?」

心臓がドクドクして、うるさい。
私は早く自分の部屋に戻ろうとして、階段を駆け上がる。

「はぁっ、はぁっ……」

角を曲がってなんとか《501》号室の扉の前に来て、素早く開けると
中へ身体を滑り込ませる。

そこまでは、よかった。
薄暗い部屋の中の灯りをつけるとーー、私は思わずぎょっとする。

靴脱ぎ場には、男物の靴が散乱していたから。
しかも、よく見ると、ここは私の部屋じゃない。

微かに鼻を掠める、香水のアクアシャボンの香り。
ここ、さ、桜の部屋だ……っ!!

「なに、人の部屋に黙ってはいってんだ? そんなに襲われたいのか?」
振り返ると、桜が立っていて、意地悪そうな笑みを浮かべている。

「ち、ちがっ……!!」
戻ろうとすると、私は桜に後ろからすっぽりと抱きしめられた。