目を伏せた私は、ちょっぴり期待してしまう。

今出会った見知らぬ人だけど、もしかしたら一緒に泣いて同情してくれる
んじゃないかって。

でもそんな淡い思いは、直ぐに打ち砕かれる。

「アホくさ。そんなお前の事情なんて、どーでもいい。駄々こねてねぇで、子供は
さっさと、帰るべき所に帰りな」

イヤーカフを両耳につけた彼はくるっと背を向けて、ひらひらと手を振った。

「…………嫌」
「は?」

頭だけ振り返った彼と瞳がぶつかる。

「私は絶対、どこにも帰らない。川の魚の餌になった方がまだマシだよ。もしそれも
許されないなら、この汚い世界を見られないように、自分の目を潰してやる」

拳に力を込め、爪が肉に食い込んでじわっと血が滲む感覚がした。

「……ガチか。俺はそういう馬鹿な程、反抗的な女見たことねぇよ、ははっ」

すると、彼は私の前に向き直ると、一通の洋封筒(ようふうとう)を鞄から取り出す。