▽
目を伏せた私は、ちょっぴり期待してしまう。
今出会った見知らぬ人だけど、もしかしたら一緒に泣いて同情してくれる
んじゃないかって。
でもそんな淡い思いは、直ぐに打ち砕かれる。
「アホくさ。そんなお前の事情なんて、どーでもいい。駄々こねてねぇで、子供は
さっさと、帰るべき所に帰りな」
イヤーカフを両耳につけた彼はくるっと背を向けて、ひらひらと手を振った。
「…………嫌」
「は?」
頭だけ振り返った彼と瞳がぶつかる。
「私は絶対、どこにも帰らない。川の魚の餌になった方がまだマシだよ。もしそれも
許されないなら、この汚い世界を見られないように、自分の目を潰してやる」
拳に力を込め、爪が肉に食い込んでじわっと血が滲む感覚がした。
「……ガチか。俺はそういう馬鹿な程、反抗的な女見たことねぇよ、ははっ」
すると、彼は私の前に向き直ると、一通の洋封筒(ようふうとう)を鞄から取り出す。