▽
微かに鼻をかすめる消毒液の匂い。
そして、さりげなく香る、アクアシャボン。
誰かが、私の手を握っている。
誰かが、私の名前を呼んでいる。
「ーーいっ……、麗っ!!」
「……、ん」
起こさないで、呼ばないで。
もう少し、このままにして欲しいのにーー。
遠くで聞こえる声は、どうしようもない焦燥感に苛(さいな)まれている
気がした。
私は、重い瞼をゆっくりと持ち上げてーー。
急に私の首に、アクアシャボンと共に抱き着いたのは、正真正銘の彼ーー、
桜だった。
「……、さ、くら?」
「麗っ、良かった……、もう目ぇ覚まさないんじゃないかと思った……、」
少し震えてる桜に、私は思わず笑みを零す。
「なんで、笑うんだよ」
桜はちょっとムスッとした口調で私を抱きしめたまま言う。
「嬉しくて。桜、私のこと心配してくれてありがとう」
私も、桜の背中に腕を回して、ぎゅっとした。