桜が、息を呑んだのが分かった。

「何でーー、そんな面(つら)してんだよ」
「……っ、これは、違うの! 誤解なのっ……!!」

何とか声を絞り出してそう訴えたけれど、つうっと目から温かいものが
頬をつたって、下に落ちる。

……人前で泣くなんて、何年ぶりだろうか。
そう思うくらい、私は、“泣く”という行為を諦めて、忘れていたんだ。

ーーだって泣いたってどうにもならない、何かが変わるわけでもない。

するとーー、桜の大きな手が私の後頭部に手を回して、グイッと自分の
胸に押し付ける。

「理由は聞かない。けど、泣きたいときは我慢せずに泣け」

雨はいつの間にかやみ、雲の隙間からは光がさして、私と桜を
照らしだしていた。