学園まで徒歩5分の場所を、六華くんから逃げるように走った。

今は、怖い。
今は、六華くんが怖い。

あんなに晴れていた天気は、灰色の雲に覆いつくされて、しとしとと
頭上から雫を落とされる。

ーーまるで、空が私の心を映し出しているかのよう。

案の定、雨水で濡れた寮のすぐ外にある階段を、素早くおりたのが
いけなかった。

「ーーきゃっ!?」

見事に足をすくわれて、視界が傾く。
手すりに掴まろうとしたが、手が届かなくてーー、心の中で諦めたその時。

身体の動きがピタリと止まった。
誰かに後ろから抱きしめられた形になる私。

「はぁー……、あっぶねー、そそっかしいにも程があるよ、お姫様」
この意地悪な口調と声ーー、は……。

「さ、桜……?」

「何言ってんの、お前。その反応、もしかして、俺の事忘れかけてんじゃ
ねーだろーな」

顔を無理やり覗き込まれて、間抜けな表情を桜に見られてしまう私。

鏡がないから、自分ではどういう顔をしているのかわからないけど、
恐らくーー、悲しみの感情は隠せていないだろう。