▽
見上げればーー……、月。
下を向けばーー……、川。
どちらも私は見たくない。
月はまぶしくてウザいし、川は底が見えない漆黒で恐怖を煽られる。
でもーー……、もう私はこの石造りのアーチ橋から身を投げて、死ぬ運命。
こんな、絶望にまみれた世とおさらばできるんだ。
欄干(らんかん)を掴む両手に力を込めて、川も月も見ないように瞼を閉じた。
そのまま身体を緩やかに、前方へ倒す。
心が震えるーー……。
それは、悲しみではなくーー、“歓喜”だ。
死ぬことは通常の人の思考ではできないと聞いたことがある。
しかし、ズタズタに傷つけられた私の心は、この自殺を待ち望んでいたか
のように嬉しがっている。
自分はーー……、もう“異常者で頭が狂ってる”んだと確信した。
ああ、やっと死ねるーー、死ねるんだ。
「お~? 可愛い子はっけーん」
「何してんの、入水(じゅすい)自殺? 悲しいコトでもあったの~?」