見上げればーー……、月。
下を向けばーー……、川。


どちらも私は見たくない。
月はまぶしくてウザいし、川は底が見えない漆黒で恐怖を煽られる。


でもーー……、もう私はこの石造りのアーチ橋から身を投げて、死ぬ運命。
こんな、絶望にまみれた世とおさらばできるんだ。


欄干(らんかん)を掴む両手に力を込めて、川も月も見ないように瞼を閉じた。
そのまま身体を緩やかに、前方へ倒す。

心が震えるーー……。

それは、悲しみではなくーー、“歓喜”だ。

死ぬことは通常の人の思考ではできないと聞いたことがある。

しかし、ズタズタに傷つけられた私の心は、この自殺を待ち望んでいたか
のように嬉しがっている。

自分はーー……、もう“異常者で頭が狂ってる”んだと確信した。

ああ、やっと死ねるーー、死ねるんだ。

「お~? 可愛い子はっけーん」
「何してんの、入水(じゅすい)自殺? 悲しいコトでもあったの~?」