キョウダイの中でちゃんとした本名があるのはわたしだけだった。
だから他との区別を統一するために、用意されたコードネームでばかり呼ばれていて。
頬がふんわり熱くなっていく。ドクドクッと心臓が早く動いていくのを感じ、緊張が加速した。
「りんってさあ」
「! っは、はい」
ま、また呼んでくれた。
鼓動の間隔がより短くなってしまう。
「最近来た人でしょ」
「き、昨日です」
「……どーりで」
春日さんの声が一段階低くなった。
「じゃあ軽く教えてあげるけど。ここは『南蜘蛛』っていう権力者一家が管理してる、大きな街だね」
「な、なるほど……?」
「女の子は少ないから、一人だと目立つんだよね。こんなとこに来るってよっぽどの事情がないとないでしょ、なんかあったの」
「……え、と」
問いの答えを考えるだけでも頭痛が襲う。
記憶が、思い出すものでないと警告を鳴らしているように思えた。



