「……おっけ」
彼はサングラスを外した。
直後──ヒュ、と空気を切り裂く音がした気がする。
あるいは、誰かの息遣いだったかも。
ともかくわたしの拘束はなくなり、悪人達が地面に転がったのは、確か。
「はいはい、ここ男子トイレだから、女子は出てってね~」
強引に外へ放り出される。
気絶、させていた。たぶん。足で蹴っていた、はず。
あの一瞬で……見るからに面倒事が苦手そうな風貌で……。
「うお、まだいたの」
わたしは放心していたらしい。
救世主が用を済ませるまで、トイレの前で立ち尽くしていたようだ。
わたしの横をすり抜けて歩く後ろ姿を追いかける。一つにまとめられて背中でゆらゆら揺れる、薄い色素の髪を眺めながら。
「あの、お礼を……」
「いいよいいよ。助ける方が普通なんだろうしさ。俺が嫌そうにしちゃったの見たでしょ、お互いちょっとずつ不快になったってことで」
「いえ、でも」
結果的には助けてもらったことになったわけで。
それに、勝手に『助けてくれなさそう』と決めつけるのはよくなかった。
「何かほしいものとか……」
「ほしいもの~? だったらあれでしょ」
彼が示したのは、機械が溜めていく銀色の玉。



