「つーか奪ったもん勝ちだろ。女、行くぞ」
油断していた。
まだ言い合いが終わっていないのに、ピンク髪の人がわたしを拐って駆けたのだ。
体が宙を浮き、肩に担がれる。周りの風景が動きだす。
光峰さんが焦った様子で手を伸ばすのが見えた。
「っ、と、“止まって”!」
「──あ?」
咄嗟の“命令”。
ところで……速度に乗った物質が突然止まるとどうなるのだったか。
予想通り、前につんのめったピンク髪の人。
わたしごと地面に倒れていく、走馬灯のようにゆっくり流れていく時間。
視界が回る。ぎゅっと目を閉じた。
「~~ッ!」
人が二人、地面とぶつかる音。痛みを堪える声。
ただし、わたし自身の痛みはあまりない。
勇気を出して目を開けると、わたしはピンク髪の人を下敷きにしていた。
「……あはっ」
噴き出すように聞こえてきたのは、茶髪の人の笑い声。
広い広い家の中が、たった一人の力によって爆笑の渦に包まれたのだった。



