ぎゅっと苦しくなった胸は、無視することにした。
「りんも起こしたし、俺は遊びに行って来ようかな~」
えっ、春日さん、行っちゃうの……。
うっかり口に出すところだった。これは春日さん離れの第一歩、そう思うことにしないと。
「じゃあね、りん。そいつは俺より頼りになるよ」
「あ……」
わたしに背中を向けたまま、ひらりと手を振ってくる。
手を伸ばしそうになって、拳を握ることで食い止めた。
もう見えない背中を追いかけるように、視線は扉から離れてくれなかったけれど。
「臨さん、今後のお話を私としましょう」
「お話、ですか……」
「はい。まずは食事をとりながらでも」
頷き、前を歩く光峰さんに同行する。
廊下に出たときには、春日さんの姿はもうなかった。
無意識に自分の唇を触る。
キスは愛情表現だという認識だったけれど、春日さんは口寂しいとも言っていた。
つまり、あの行為に愛は関係なくて、唇を埋めるものがほしかったってことだ。
唇以外が埋まってしまったのは、むしろわたしの方だった。



