唇と唇を合わせる行為──接吻、口づけ、キス。
知識はあるけれど、経験はない。
だって、これは愛情を捧げるためのものだ。
愛なんて、研究には必要ない。なくたっていい……だから。
知らなくていいはず、なのに。
「でもいいって言ったよね」
「っ、……ん」
こんなのがお礼なんて嘘だ。
名前を呼んでもらうのも、キスも。
──全部もらっているのは、わたし。
「……泣いちゃった」
春日さんがわたしの目尻を拭う。
これは、体温が今までにないくらい高まったせいだ。生理的に出ただけで、否定的な意味など一切こもっていない。
嫌がっていると思われたんじゃ……。
「だ、大丈夫、です。もう終わりですか……?」
「ううん、俺から逃げるまで永遠だね」
「え、えいえん……」
「だから早く次の場所探さなきゃダメだよ」
……次。
ドスンと強くのし掛かった気がする。
いつまでもここにいられるわけがないなんて、少し考えればわかること。
限界まで沸騰していた熱が冷めていく。
そのおかげで、自分が舞い上がっていたんだと気付けた。



