春日さんの好きなものに、嫌な出来事を植え付けていないだろうか。



「わたしのこと……嫌いになりましたか?」



 違う、そんなことを聞きたいわけではない。

 春日さんが傷付いていないかと、そっちを考えるべきなのに。一体何を恐れている?



「別に? りんを嫌いになる要素とかあったっけ」



 わたしは何を安心しているのだろう……?



「りん、」

「……っ」



 少し掠れた声が耳元で反響する。

 またビクビクッと体が脈打って、本能が勝手に喜んだ。



「相変わらず、嬉しそーな顔してくれんね」



 すりすりと撫でられる耳の裏。

 くすぐったさに耐えられず、身をよじろうとするも大きな体に封じ込められる。

 打つ手なし、だ。



「りん、俺さあ、お願いがあるんだよね」

「……なんですか?」

「昨日からずーっと口寂しくて、やめたいものをやめられそうにないの」

「わたしに何かできるんですか?」



 そうだ。わたしはまだ春日さんに正式なお礼をできていない。

 そのためについて来たのだから、できることならなんでもするつもりだ。