そうとなればすぐに退かなければならない。

 掴まれた腕をどうにか振りほどくため、「離してください」と口を開こうとした。

 が、その前に一人が壁の絵を指差すので、先に絵の方へ意識を向ける。



「見ない顔だけど、そもそも、ここがどこだかわかってんの?」

「ど、どこって……?」

「『南蜘蛛』のシンボル、見てたのに知らねーのかよ」

「なぐも……」

「たまにいんだよな、知らないで来るやつ」



 どこかで聞いた、かも。

 「南蜘蛛なら見つからない。そこにしよう」って、先生達が話していたのを盗み聞きした覚えがある。

 話の数日後にこの街へ連れてこられたから、地名ってことだろうか。



「はあ。その反応、マジで知らねーんだ」

「……すみません」

「別に謝んなくていいよ。相手してくれれば、な」



 相手……?

 辺りにある機械は、一台につき一人が座って触っている。ドアノブのようなものを回すと銀色の玉が現れて、時々下にある器へ溜まっていく。

 どういう仕組みなのだろう。何をするためのもの?

 あの機械に複数人用のものがあるということ、だと思う。

 少し、好奇心が疼いてしまって。



「わかりました」



 返事を、してしまった。