「南蜘蛛 春日は街の管理人らしい。街の最高権力者だ。だったら好きで街に来たわけじゃない人を外に出すなんて簡単なはず」



 違う。



「それをしないってことは、利用価値のある《支配》を出したくないだけなんだよ」



 やめて。

 春日さんを悪く言わないで。


 ……こんなわたしの気持ちも、春日さんがわたしを道具として使うために誘導されたものだったら?



「っ……、いや、」

「し、《支配》……?」

「考えたく、ない……」



 涙が落ちる。

 止まらない。悪いことが浮かんで疑心暗鬼になる。



「だっ、大丈夫……。おれが何があっても《支配》の味方だから……っ」



 《心理》は背中を優しく擦ってくれる。

 ……そうだよね。たぶん、一番信用できるのは《心理》なんだと思う。


 でもね、違うんだよ。

 わたしは助けてほしいんじゃない。

 南蜘蛛で見てきたもの、触れてきたもの、感じてきたもの、全部信じたいの。



「ありがと、《心理》……」



 ──けれどそんなのは、わたしのわがまま。


 大事な弟に押し付けるようなことではない。



「さっきの話は、忘れて?」



 笑顔を作った。

 《心理》に会いたい。春日さんを守りたい。

 どっちも同時に叶える方法が、一つだけあるじゃないか。

 わたしは今からそれをしようとしてるんだよ。