ようやく離れたと思ったら、次は耳に唇を寄せられる。
「このまま、おあずけしていーの?」
わたしの伝えたいことは届いていなかった。
よくないから、だめなのに。
耳の縁を這う生ぬるい舌。
わたしが吐息を漏らすたび、嬉しそうな声が鼓膜をくすぐる。
「待、たせちゃい、ますっ」
「元は向こうが悪いんだから、ちょっとの遅刻くらい大目に見てもらお」
「そんな……ぅ、」
胸板を押してみても、びくともしない。
気を抜くとすぐに呑まれてしまうから、平静を保っていたい、けれど。
この感じは、折れてくれない様子だ……。
「キスしかしないから、ちょっとだけ」
それが、どんなに残酷なことか春日さんはわかっていない。
もう……キスだけじゃ、足りないのに……。
そっと耳に髪をかけられるのも、優しく腰を引き寄せられるのも、熱を燻らせるための材料でしかなくて。
言い出せない願望を、不完全燃焼のまま目を逸らし続けた。



