〇大堂青奈(だいどうあおな)の家・二階青奈の部屋(夜)



ガチャッと青奈の部屋のドアが開く。
ドアを開けたのは、上半身裸で首にタオルをかけた姿の煌輝だった。



煌輝「大堂さんごめん、ドライヤー借りてもいいかな?」

青奈「……ッ!」



煌輝の髪は、湯あがりでまだ濡れている。

しかも上気してうっすらと赤い肌がなんとも言えない色気を醸し出しており、ボンッと赤面した青奈は絶句してしまう。





〇大堂青奈の家・一階浴室(夜)



湯船に浸かった青奈が、ふぅ、とため息をつく。



青奈(ドライヤー洗面所にあってよかった)





〇(回想)数分前の出来事。



煌輝へドライヤーを渡す青奈。



青奈「はい」

煌輝「ありがとう、使い終わったらリビングに置いておくからお風呂出たら寄って」

青奈「うん」



(回想終了)





〇大堂青奈の家・一階浴室(夜)



湯船に浸かっている青奈。



青奈(男の子でも、ドライヤーって使うんだ……)



青奈は湯上りで上半身裸だった煌輝の姿を思い出し、思わず湯船へ口までつかりブクブクと泡を立てる。



青奈(私なんていつも自然乾燥だから、存在すら忘れてた……)





〇大堂青奈の家・一階リビング&キッチン(夜)



青奈はお風呂上がりにリビングのドアを開け、そこから見えるキッチンで作業をしている煌輝へ声をかける。

煌輝はパジャマの上に、エプロンをつけていた。



青奈「華門寺くん、何やってるの?」

煌輝「朝食の用意をしておこうと思って。ぁ、来てもらってもいいかな」

青奈「……?」



おいでおいでの仕草をする煌輝のもとへ、青奈は意味も分からず近づいていく。



煌輝「これ、試食してみて」

青奈「クラッカーに苺ジャムをのせたの?美味しそう。いただきます」



煌輝がお皿を差し出し、青奈はそのお皿にのったクラッカーをひとつつまんで食べる。



青奈「美味しい!」

煌輝「よかった。ジャムは明日の朝、ヨーグルトに入れるね。もうひとつどうぞ」

青奈「ありがとう」



口元にジャムがついたことに気付かず、もぐもぐと食べる青奈。



青奈「これお母さんの手作りジャムだよね、今年は作ってないのかと思った……」

煌輝「ぁ、よかった、ミサエさんが作るジャムと同じ感じにできてる?」

青奈「……もしかして、このジャムも華門寺くんが作った、とか?」

煌輝「そう、甘さ控えめで苺の粒が大きめに残っている手作りジャムが大堂さんは好きだって、ミサエさんから聞いて」



青奈(華門寺くん、凄すぎ……っ)



驚いて目を見開きながら煌輝の事を見つめる青奈。

そんな青奈を見て、ふ、と煌輝が微笑んだ。



煌輝「大堂さん、口元にジャムがついてるよ」

青奈「ぇ、本当!?」



青奈(ひぇぇえ、は、はずかしい……)



赤い顔をした青奈が、ジャムがついている方とは反対の口元を手で擦る。

頬を染めながら恥ずかしがる青奈を見つめているうちに、ムラムラする感情が湧いてくる煌輝。



煌輝(可愛い……、大堂さん、可愛い……)



青奈「とれた?」

煌輝「違う、こっち」



気付いたら煌輝は、青奈の肩を抱き寄せ唇のすぐそばについたジャムを舐め取っていた。



青奈「っ!?」

煌輝「ごめん、美味しそうで我慢できなくて、つい……」



煌輝の顔がまだ近いままで、青奈の顔は真っ赤。



煌輝(照れてる大堂さん、可愛すぎ……)



青奈「か、華門寺くんって、そんなに苺ジャムが好きなんだ!?」

煌輝「うん、大好き。すごく、好き」煌輝(もっと、食べたい)



熱のこもった視線を青奈に送り続ける煌輝。



青奈(な、なんか、好きってジャムの事なのにドキドキしちゃう……)



煌輝「大堂さん……」



愛の告白でもしそうな雰囲気の煌輝の表情に、胸がときめき動揺する青奈。



青奈(ぇ、ぇ、ぇ……?)



煌輝「その服、お風呂に入る前と同じ気がする……」

青奈「へ?」



突然の指摘に一瞬キョトンとした青奈だが、途端にワタワタ動揺してしまう。



青奈「ぇ、ぁ、その……お母さんの負担を減らすために自分の服は自分で洗う事に決めたんだけど、最近は洗濯できてなくて、着る服が無く……」



青奈が身につけているのはグレーのスウェット上下。手首足首にゴムが入っていて、動きやすさだけは抜群。

青奈が下を向いてゴニョゴニョ話していると、パタン、とリビングのドアの閉まる音がした。



青奈(パタン……?)



その音に気付いた青奈が顔を上げる。リビングダイニングに煌輝の姿は無い。



青奈「あれ、華門寺くん……行っちゃった……?」



青奈(今度こそ、呆れられたかも……)



閉じたドアを見つめていたら再びバタンとドアが開き、ビクゥッッ!!、と青奈は全身で驚きを表現する。

ドアから入ってきた煌輝は手にパジャマを持っていた。

煌輝はそのパジャマを青奈へ渡す。



煌輝「はい、俺のパジャマじゃ嫌かもしれないけど洗濯はしてあるから、着て」

青奈「ぇ、そんなの、悪いよ……。今日は日曜で外に出てないし、このままで大丈夫」

煌輝「ダメ、俺が耐えられない。大堂さんには洗った服に着替えてさっぱりしてほしい。ほら、バンザイ」



煌輝が青奈のスエットの上を腰の所から捲り始めたため、青奈のお腹がチラリと覗く。



青奈「ひぇ、わ、わかった。じ、自分で、着替えるからぁ」



恥ずかしさで涙目の青奈に懇願され、自分がしようとしていた事にハッと気づいた煌輝は途端に赤面した。



煌輝「ごめんッ」



目線を逸らした煌輝は、青奈にパジャマを押しつけるように渡しながら話しかける。



煌輝「着替え終わったらもう一度ここに来て。本当に着たか確認したいから」

青奈「は、はいッ」



青奈(華門寺くん、私が不潔な状態でいるのが耐えられないくらいキレイ好きなのかな……)





〇大堂青奈の家・一階浴室前の脱衣所(洗面所)(夜)



煌輝から借りたパジャマに着替え、前のボタンをとめている青奈。



青奈(私のパジャマとは、生地の質が全然違う……。なんか、なめらかで高級な感じ。それに、いい匂いがする)



青奈は自分の手首を鼻へ寄せ、スン……と匂いをかぐ。



青奈(それにしても……)



パジャマの裾で隠れた手を少し持ち上げて、青奈は見つめた。



青奈(華門寺くんって背が高いから、パジャマも大きい。袖も裾も、捲らないと)





〇大堂青奈の家・一階リビング(夜)



青奈「華門寺くん、着たよ。貸してくれてありがとう……」



青奈を見て嬉しそうに微笑むと、煌輝は近付いてきて捲られた青奈のパジャマの袖へ触れた。



煌輝「俺のパジャマだとぶかぶかだね、可愛い」

青奈「かか、かわ……ッ!?」



激しく動揺し赤面する青奈だが、すぐにハッと何かに気付いたような表情になった。



青奈(ぶかぶかが可愛いって、子どもに対する可愛いと似てるかも……?)



青奈は頭の中で、ぶかぶかの服を着た赤ちゃんや大きなランドセルを背負った小学一年生の姿を思い浮かべる。



青奈(私に可愛いって言ったのは、それと同じに違いない)



心の中でひとり納得する青奈の髪に、煌輝の手が触れた。

ドキン、と青奈の心が跳ねる。



煌輝「髪、濡れたままだね。ごめん、俺がドライヤー借りちゃってたから」

青奈「だ、大丈夫。私いつも自然乾燥だから。それじゃ、おやすみなさい」



煌輝から逃れるように歩き出そうとした青奈だが、パッと手を掴まれた。



煌輝「ダメだよ。いま漫画の賞の締め切り前だろ? 風邪なんてひいたら大変だぞ」



青奈(て、て、手をつないでる……ッ)



内心かなり動揺する青奈。



青奈「で、でもドライヤーって時間かかるし、漫画描く以外にも明日の予習とか、やりたい事たくさんあるから」

煌輝「それなら俺が乾かしてあげる。その間、大堂さんは勉強してればいい。ね、そうしよう?」

青奈「……はい」



青奈(華門寺くんって、ほんと優しいなぁ……)



煌輝へ尊敬の眼差しを送る青奈。

一方、一見真顔の煌輝だが、実は心の中でドキドキ赤面しながら動揺していた。





〇二階・青奈の部屋(最初よりもゴミが減り、綺麗になっている)



向かい合って立つ青奈と煌輝。



煌輝「ドライヤーの熱が当たると良くないから、眼鏡を外すね」



煌輝が青奈の眼鏡を外すと、長い睫毛で縁取られたパッチリと大きな黒い瞳を持つ超美少女が現れた。

手にした青奈の眼鏡を煌輝はジッと見つめている。



煌輝(この美しさを隠せるなんて、この眼鏡すごいな……)



青奈「華門寺くんの顔が、全然見えない……」



困ったような表情をした青奈がズイッと目の前に顔を寄せてきたため、煌輝の心臓がドキッと音を立てた。



煌輝「学校では絶対に眼鏡を外さない方がいいよ」



煌輝(眼鏡を外したらさらに可愛いなんて、他の男に知られたくない)



青奈「ほんとそうだね、何も見えなくなっちゃう」



煌輝「椅子に座ろうか。大堂さん、こっちへおいで」



エスコートされるような感じで煌輝に手をとられ、青奈の胸がドキンとときめく。

煌輝は学習机の椅子に青奈を座らせた。



煌輝「参考書とか読む?言ってくれれば取るよ」

青奈「ぁ、それじゃ英語の教科書でも読もうかな。机の横の鞄に入ってるの」

煌輝「了解」



煌輝から教科書を渡された青奈だが、ハッと気づいた表情をする。



青奈「あ、でも華門寺くんも勉強したいよね。ごめんね、家事してもらったうえに私のお世話までさせちゃって」



青奈(特待生の私たちよりも成績が上だから、勉強時間もたくさん必要なはず)



煌輝はふわッと柔らかく微笑んだ。



煌輝「気にしないで。俺、高校でやる勉強は中学の時に終えているから大丈夫だよ」

青奈「ぇ、私たちまだ高一だよね!?」

煌輝「中二の時にキッカケがあって、やる気が出たんだ」

青奈「そうなんだ……」



青奈(キッカケって、なんだろう……)



椅子に座る青奈の髪に、煌輝はドライヤーをかけ始めた。

超近眼の青奈は、顔へ教科書をくっつけるように近付けて読んでいる。



青奈(ぅわぁ……、ドライヤーで乾かしてもらうと、こんなに温かくて心地いいんだ……)

(美容院はいつも駅にあるカット専門の所だから、知らなかった)



煌輝「熱くない?」

青奈「大丈夫……」



青奈(気持ちいぃ……、ずっとこうされていたいくらい)



ウトウトと眠そうな表情になる青奈。



青奈(ん……眠いよぅ……)



青奈は煌輝が作ってくれたおにぎりを思い出す。



青奈(満腹で……、昨日から、ほぼ徹夜の状態だったし。一気に眠気が押し寄せてきた気がする……)



煌輝「どう、乾いたかな?」



煌輝が声をかけると、青奈の腕がだらんとさがり手に持っていた教科書が床に落ちた。



煌輝「大堂さん……?」



椅子に座っていた青奈の身体がぐらりと傾く。



煌輝「っ!」



煌輝は椅子から落ちそうになった青奈の身体を咄嗟に受けとめた。

気持ちよさそうな表情で寝ている青奈。



煌輝「寝てる……」



優しい表情で、フ、と小さく息を吐く煌輝。

お姫様を抱き上げる王子のように、煌輝は青奈を横抱きにする。



煌輝「初めて会った二年前も、絵の仕事がしたいって言ってたね」



煌輝の視線の先には、参考書や漫画を描く道具が、置かれた机。



煌輝「勉強も将来の夢も、頑張っているから疲れたのかな」



煌輝は青奈の額へ、触れるだけのキスをした。



煌輝「俺がたっぷり甘やかしてあげる」



そのまま煌輝はベッドへ青奈を運ぶと、宝物を扱うような感じでそっと丁寧にベッドへ寝かせた。

今までの爽やかな微笑みと違って困ったように苦笑しながら、ギシ……とベッドに片手をつき熟睡している青奈を見つめる煌輝。

煌輝のパジャマが大きくて、青奈の胸元は少し広く開いていた。



煌輝「無防備だなぁ、可愛すぎ」



はだけた青奈の胸元へ、煌輝が唇を寄せる。



煌輝「俺以外にこんな事させちゃダメだよ」



青奈の胸元についたキスマークを眺め、煌輝は満足そうに微笑んだ。