さよならの続き

私のデスクからはひとつ島を挟んだ先に、課長席――航平のデスクがある。
彼は元々MRだったけど、課長ともなれば営業に出ることはないだろう。
嫌でも彼の気配を感じる日々は続く。
そもそも航平はまだ34歳のはずだ。
その若さで課長だなんて、一体名古屋でどれだけの実績を残してきたんだろう。
仕事に集中しなければならないのに、意識が彼のほうにいってしまう。
心がざわざわして落ち着かない。

不意に私の横を軽やかな足取りが通り過ぎていった。
彼も背が高く、足が長いからすぐにわかる。
私の後ろの島にいる、MRの吉岡哲二(よしおかてつじ)さんだ。
彼は課長席のそばまで行ってひらひらと手を振っている。
それに気づいた航平は途端に笑顔になった。

吉岡さんと航平はこの会社の同期であり、大学も同じだったらしい。
名古屋に発つ前、私と吉岡さんと航平は同じ部署にいた。
付き合っていたことも、異動のときに別れたことも、吉岡さんは知っている。

「久しぶりだな、元気だったか?」
「ああ。ってわりと連絡とってたじゃないか」
「会うのは久しぶりだろ。妹も会いたがってたよ。なんだよ、俺よりずっと偉くなっちゃって」
「俺だっていきなり課長昇進とか言われて驚いたんだよ」

耳に馴染んだ、語尾が微かに掠れる低音。軽く弾む笑い声。

「だけどさーー」

耳をそば立てている自分に気づき、自嘲してモニターに思考を戻した。
私には関係ない。あのひとは他人だ。昔とは違う。
ただ…あの笑顔を見るのが久しぶりだったから、少し気になっただけだ。