オールスパイス

「俺はさぁ、これしかないんだ」
「え?」
「ずっと料理しかやってこなかった俺には、これしか自慢できるもんないから……教えてあげるなんて言って、本当はいいところ見せたかっただけ」
「格好いいですよ。私には絶対出来ませんから」 
「出来たじゃん」
「それは……」

 言いかけて口ごもった菜々子の顔を平野が覗き込む。

「必死に頑張ったからです」
「そうか」

 平野は次の言葉を待つように、菜々子から目を逸らさない。

「美味しいって言ってもらいたかったんです。料理人の平野さんじゃなくて、私の好きな平野さんに……」

 平野が微笑むのと同時に、大きな身体がふわりと菜々子を包んだ。

「やっと手にしたチャンスだから、大事なレシピと引き換えにしてでも菜々子ちゃんを繋ぎ止めておきたかったんだ」
「そんなことしなくても、もう既に惚れてましたから」

 菜々子は平野の腕の中で呟いた。

「カフェで見る菜々子ちゃんはすげぇ格好よくて、近寄り難いオーラ出てたけど、料理してる時の菜々子ちゃんは余裕なくて隙だらけで……何度も後ろから抱き締めたくなったよ」

 平野の腕に力がこもるのを感じて、菜々子も平野の背中にぎゅっと腕を巻き付けた。