ひと駅分の彼氏

また去年の話をしようよ。


冬から始まって季節を逆にたどった私達の思い出話し。


まだまだ沢山あるじゃん。


「あの時言えなかったことを言わせてほしい」


私はイヤイヤと左右に首をふることしかできなかった。


嗚咽で言葉がつっかえて、なにも出てこない。


電車は容赦なく次の停車駅を告げる。


ねぇどうして?


どうして誰も私の願いを聞き入れてくれないの?


こんな残酷な奇跡をどうして起こしたの?


こんなのもう1度真琴と別れることになって辛いだけだよ……!


「紗耶」


真琴が私の両手を両手で包み込んだ。


その表情はとても真剣で、そしてとても優しかった。


心臓がトクンッとはねて、自然と涙が止まる。


これが本当に最後の時間だとわかっているのに、心がスーっと楽になっていく感覚がした。


「愛してる。さようなら」


それはやっぱり別れを告げる言葉だった。