ひと駅分の彼氏

次の駅に到着するまであと5分ほどだろうか。


急に焦燥感にかられて私は視線を隣へ向けた。


視界に入った真琴の足元を見て一瞬大きく息を飲んだ。


いつもの青いスニーカーが少し透けていて、電車の床が見えているのだ。


私は目をこすって何度も確認してみた。


しかし、それは変わらない。


「真琴!?」


思わず声を上げて真琴の腕を掴む。


その腕も、体も、顔も、すべてが透けていて奥に座っている人の姿が見えていた。


私は目を見開いて絶句してしまった。


「真琴、その体……」


喉の奥に張り付いてしまうような声で呟く。


真琴は悲しげな表情で微笑んだ。


「大丈夫だよ紗耶。桜の季節はもうじきやってくる。そのときにはまた笑っていてほしい」


「なにそれ。なんでそんなこと言うの?」


いつもの真琴ならこんなことは言わない。


これじゃまるで、本当に今日がお別れの日みたいじゃないか。


信じたくなくて私は強く左右に首をふった。