ひと駅分の彼氏

☆☆☆

「紗耶のおばあちゃんあのときすごかったよなぁ。焼きたての芋の皮を簡単にむいていくんだもんなぁ」


電車内。


真琴は懐かしむように目を細めて言った。


「そうだよね。私と真琴は熱くて持てないくらいだったのにね」


私も思い出して笑っていた。


ずっと仕事をして年の重ねた人の手は分厚くしっかりしていて、少しくらいじゃ熱さを感じないのだと言っていた。


その時3人で食べた玄さんの焼き芋の味は今でも忘れることができない。


蜜がたっぷりで甘くて、すごく美味しかったから。


クスクスと2人で笑い合っていると、目の前に立っているサラリーマンが咳払いをして睨んできた。


2人は同時に笑いを引っ込め、目を合わせて目元だけで笑いあった。


それはとても幸せな時間だった。


3人で焼き芋をしたときと同じくらいの幸福な感情が溢れ出してしまいそうになる。


「あのあとおじいちゃんも無事に退院して、おばあちゃんと2人で焼き芋をしたらしいよ」


それは後から電話で聞いた話だった。


「そっか。願いが叶ってよかったな」