ひと駅分の彼氏

春風堂はこの街では有名な老舗和菓子店で、街の外れまで行かないと店舗がない。


こんな早い時間に店舗まで行って戻ってきたということは、オープン前から並んだのかもしれない。


「そんなに気にしなくていいのに」


なんだか申し訳ない気分になってしまい、ハンカチを取り出して真琴の汗を拭いた。


「ありがとう。でもこれは俺がおばあちゃんにぜひ食べてほしいと思って買ったんだ。別に無理をしたわけじゃないから」


そう言われると、もう甘えるしかなかった。


真琴が私のおばあちゃんのことをまるで本物のおばあちゃんのように思ってくれていることが嬉しかった。


それから2人で電車に乗って少しの旅を楽しんだ。


休日なので電車内は空いていて、どこでも好きな場所に座ることができる。


普段はラッシュ時しか知らない2人はそれだけでテンションが上がった。


時々座る場所を移動しながら外の景色を楽しんでいると、あっという間に目的地に到着してしまった。


もう少し電車旅を楽しんでいたかったな。